第22話 明けましておめでとう


そこにあったのは、雀卓だ。

「大晦日の年越しは、麻雀だ!」

「はぁ?」

呆れた顔の葉菜に、

「この勝負、絶対負けられない!」

俺は拳を握りしめる。

「麻雀って…お金をかけるの?」

葉菜が心配そうに聞く

「身内で金をかけても仕方ない。罰ゲームだ!それも過酷な」

俺は渋い顔をして言う。

「なっなんなのよぉ、怖いわ」

「一番勝ったものが、一番負けた者に命令できるんだ」

王様ゲーム的な?」

「まあ、そう言っちゃあ、そうなんだが、毎年内容は決まってるんだ」

「何?」

葉菜が怪訝な顔で聞く

「まずはだ、年始は年末頑張ってくれた、女性の為に食べた物とかその他の片付けを男がするんだが、王者はなし、まぁそこまではいいのさ。飯もほとんど出来てるし三人でやりゃあ問題はない」

「うん…」

「親父が勝ったら正月期間中の風呂掃除。俺んちの風呂タイル張りで広かったろ?いつも風呂掃除は親父の仕事でさ、デッキブラシでガシガシ毎度やらなきゃならない、親父はそれをパスしたいから、親父が王者なら風呂掃除」

「ふぅん。それで他の三人は?」

「俺達三人は同じ、俺が何年か前に提案した案だ」

ドヤ顔で言ってみた。

「だから、なんなのよぉ」

「負けたら、コンビニまで行って缶コーヒーを1本買って来て王者に献上するんだ!」

「はぁ?それが罰ゲーム?」

「そうだ葉菜!都会育ちの葉菜にはわからないだろうが、ここから1番近くのコンビニまでどれくらいかかると思う?」

「知らないわよ」

「車で30分だ」

「それが、どうしたの?……ん?もしかして!それまで…」

「そう、車を運転しなきゃいけないから、アルコールがぬけるまで酒が飲めないんだよ。真っ昼間から堂々と酒が飲めるこの年始に缶コーヒーたった1本の為に酒が飲めない。そんな残酷な仕打ちあるかぁ?」

「涼ちゃんが考えたって言ってたじゃない」

「あっまぁ…そうだが…哲が負けた時はさぁ、人にハァハァ息をかけて、匂わないかと何度も聞いてくるし、中々、その判断が難しいので、アルコールチェッカーも用意してある!」

そこまで、話すと葉菜は、半端ない呆れ顔で口を開けていた。

「もお、馬鹿みたいでしょぉ」

すみねぇが葉菜の後ろから、話しかける。

「何を言うんだ、年始の飲み放題をかけた過酷な勝負なんだ!」

熱く語る俺

「はいはい、言ってなさい。私達は男達がうるさいから、離れでお菓子をつまみながら、テレビをみるのよ、お菓子のレシピとかもぜひ聞きたいし葉菜ちゃんも、あっちにいきましょ」

「そうするわ」

「なんだ!葉菜行っちゃうのか!」

「だって、麻雀とかわからないし…テレビを見たり、お母さんやお姉さんと話をしてた方が楽しいわ」

「そんな、葉菜!」

「はい、うるさいうるさい。葉菜ちゃん行きましょー。涼ばいばーい」

「待て、葉菜!行くなぁ」

「おい!お前、いい加減にしとけ!やるぞ」

「ちっ!まぁ仕方ない。明日の元旦の王者は俺だ!」

「幸せボケしてて大丈夫なのか?」

哲がニヤニヤ笑う

「ふん!負けるか!」

そして、俺達の熱い戦い始まった。

なんだかんだ、麻雀で盛り上がりあっという間に時間が経ち、そろそろ、後1分で年明けだ。

「ちょっと待った!」

「なんだ涼?便所か?」

「違うわい!ちょっとだけ、タイムねー」

俺は離れに走って行った。

”チッチッチッ”

12時ジャスト

「葉菜ぁ、明けましておめでと〜」

俺はこたつに座っている、葉菜の背後から抱きつき頬にチュウした。

一同、ア然とした空気。みるみる、赤くなる葉菜。

「酔ってるね」

「ああ、相当だね…」

「子供達が寝てて良かったわ」

「何だよぉ!やっぱり、年の初めの最初の挨拶は俺とでなきゃな、なっ?なっ?葉菜」

葉菜は赤くなって言葉を失っていた。

「馬鹿だね」

「そうね、葉菜ちゃんこんなんで、いいの?」

「考えなおそうかしら…」

「ええ!葉菜ぁそんなぁ!」

俺が叫ぶ背後から

「おい!いつまで、待たせんだよぉ!これ以上こねぇとお前の負けが確定だぞ」

「えっそれも困る!」

「おらおら、とっと来な」

俺は、哲に首もとを掴まれ、引きずられるように連れ戻された。

「葉菜ぁ、待ってろよぉ。俺の事を忘れるなよぉぉぉ」

こうして、年が明けた。


元旦の朝、全員揃ってお雑煮におせちを広げお年賀の挨拶。そして、おとそが振る舞われる。

「涼は?」

「いや…俺はいい…」

「そんな事言って、縁起物だろ?飲まなきゃ」

「うっ…」

俺は渋々と盃を出す。ニヤニヤ笑いながら、哲が盃に並々と日本酒を注ぐ

「おい、やめろって!また、アルコールが抜けるのに時間がかかるだろ!」

結果は俺の惨敗だった。

「ちぇっなんで、負けたんだろう」

「幸せボケだろ」

「そうだね」

容赦なく罵詈雑言が飛んでくる。葉菜まで、

「飲み過ぎだから、ちょうどいいのよ」

と言ってくる。

朝飯が終わってふてくされて、寝転ぶ俺を前に、哲が瓶ビールの栓を開けてグラスに注いで飲んでいる

「いやぁ!いいビールはさすがにのど越しが違うわ」

「ああ、哲、俺も」と考兄

「どれ、ワシも飲んでみようかな」

日本酒派の親父まで!

「鬼だな鬼!」

「ふん、父さんが負けた時はお前、目の前で日本酒を飲んでたじゃないか」

「だいぶ前だろ、昔の事は忘れろよ。あーー退屈だぁ!」

ゴロゴロとふてくされる俺に

「もう、めんどくさいわねぇ」

「ふん!おっそうだ!まゆ、ゆりトランプしないか?」

「やるやるぅぅ」

飛んでくるふたり、

「私もやるやるぅ」

「俺も俺も」

続々と人が集まり、結局、全員参加となった。

「人数多すぎだろ!そんで、なにやる?ババ抜き?」

「なんで、何やるって聞いてババ抜きオンリーなんだよ!」

「だって、まゆとゆりがいるなら、それしかないだろ?」

「そうだけどよぉ…」

渋い顔をする哲に俺は、笑いが止まらなかった。

(酒の恨み思い知れ)

とばかりに、ニヤニヤしていた。

「人数、多すぎだから、別れてやるか、組んでやるかだな」

「別れてやっても、哲とウチの子は不利じゃない!まゆとゆりの二人には私が組むわ!」

とすみねぇ

「俺はどうするんだよぉ」

「あんたは、顔に出すぎるのが悪いのよ!負けなさい」

「ジョーカーが俺んとこに来なきゃ勝てるだろ?それに、どうして、オレが負けるって決めつけるんだよ」

「哲が可哀想じゃないか、母さんが哲についてやるよ」

「ほんと、おばちゃん!助かる」

「横で応援するだけだけどねぇ」

「そんなの…意味無いじゃん」

「子供じゃないんだから、勝負は自分でしな」

「じゃあ、俺は葉菜と組むわ。これで5組だからそこそこ楽しめる。配るぜ」

「よし!やるぜ」

それから、暫くトランプで盛り上がる。哲は相変わらず顔に出まくりですぐ負ける。更に熱くなった男4人は

「もう1回!」

哲は万年最下位からの脱出。他はいち抜けを狙って意地になって繰り返すので、子供達と女軍はだんだん、飽きてきて抜けていった。

葉菜も

「見たいテレビあるから、じゃあねぇ」

と行ってしまった。ギャアギャア騒いでるうちに、酔も冷め無事に、缶コーヒーを献上し、俺は飲酒の許可を得て、ビールを飲みながら騒がしい年明けを過ごした。

そして、後2日の休みを残し、東京に帰る事にした。

あっという間の1週間だった。見送りは、哲は仕事で来れなかったが、来た時と同じ様に外で見送ってくれた。

「はなちゃん!りょうちゃんかえっちゃだめぇぇぇ」

ふたりは葉菜が俺を涼ちゃんと呼ぶのでいつのまにか ”涼ちゃん” と呼ぶようになり、泣いて行かないでと叫ぶ。

「葉菜ちゃん達は、東京でお仕事があるから仕方ないのよ」

すみねぇがそう言っても

「いやぁこっちに来て、こっちでおしごとしなよぉ」

と泣いて聞かなかった。

「次の長い休みには、また来るから」

「ほんとぉ?ぐすっ」

「うん、本当」

「じゃあ、行くよ」

「ああ、体に気をつけてね」

「葉菜ちゃんも、何か涼が馬鹿なことしたら、いつでも電話してきなさいよ」

「何だよ。馬鹿なことって」

「ここで、してたような事」

「うっ…まあいいや。みんなありがとう」

「気をつけてな」

「うん」

「ありがとうこざいます。お世話になりました」

葉菜があらたまって、挨拶をする

「やだよぉ、そんなにあらたまって挨拶しないでよぉ。また、来たらいい」

「はい!とても楽しかったです。また来ます」

「それじゃあ」

俺たちは車に乗り込む、子供達はまだ、わぁわぁ泣いている。少し寂しい気もするが、帰らねば仕方ない。車を走らせた。