第42話 約束
それは、真夏の暑い日だった。俺は珍しく気分が良かった。葉菜に膝枕をしてもらい、濡れ縁に出て庭を見ていた。
軒先の風鈴が小さな風に揺れて
”チリリ~ン”
と涼しげな音を鳴らす。
大樹が、走って俺の前に来る。
「パパ!僕!蝉をとったよ!ホラ!」
汗まみれで、髪の毛まで汗でびっしょりだ。頬は紅潮し、目を輝かせて俺に蝉を見せびらかす。
俺は、その蝉を手にすると
「なんだ、この蝉。もうだいぶ、弱ってるじゃないか。落ちてるのを拾って来たな?」
「ヘヘッ」
照れ臭そうに、頭をかく大樹。
「もっと、元気なのを捕まえてパパに見せてくれよ」
「うん!わかった!」
走り去ろうとする大樹に
「あー大樹。帽子!帽子!あっちの家にあるから被って行って!ひとりで取りに行っちゃ駄目よぉ!」
「わかってるぅ~」
「もう、危なっかしくて…」
「俺に、ますます似てきた」
「口も達者になってきたしね!」
「言うなよ」
俺は笑いながら、庭を見た。今年も元気にひまわりが咲いている。
「暗くなってきたな…」
「えっ……?」
「もう、日暮れか?日が落ちるのが早くなったなぁ」
「まっ…まだ、お昼よ…」
「もうすぐ秋になる。葉菜…今年こそは、行かないか?」
「……どこへ?…」
「満月の海。約束しただろ?」
「う…うん」
”じゃあさ!今度の休みに車で出かけない?海へ!泳ぐにはもう遅いけど、まだ昼間は暑いくらいだから”
「ふふ…」
「なぁに?思い出し笑い?」
「うん…」
「やくそく…した…もん…な…··…」
「涼ちゃん?涼ちゃん……?りょ…………」
”チリ〜ン…”