第30話 変わらなきゃ
次の日は、朝ご飯をご馳走になってから奥瀬の家に向かった。先日と同じように立派な門の前に立ちインターホンを押した。
ほんの少し前の事なので記憶に新しく、それを思うと状況は変わっていても、やはりドキドキする。
(思えば、ここから何もかもが始まったんだな…)
あっという間に起こったいろんな出来事を感慨深く想った。
インターホンから、なつさんの声がした。
「お待ちしておりました。今すぐお開けします」
と切れ、間もなくして門が開いた。奥瀬のおばあちゃんとなつさんが揃って出迎えてくれた。
「待っていたよ!さあ、早く中へ」
先日来た時と大違いの歓迎で俺達は心も軽くなった。そこから、葉菜は近藤の家で話したように、両親の話を沢山した。奥瀬のおばあちゃんも、やはり泣いたり笑ったりで、半日があっという間に過ぎた。
そして、昼ご飯もご馳走になり帰る事となった。帰り際も門の外で見送ってくれて、
「また、是非来ておくれよ」
と葉菜の手を握り、おばあちゃんが言った。
「はい、必ず」
葉菜が答えると、ぱぁっと明るい顔でおばあちゃんは嬉しそうに笑った。先日とはまるで人が変わったように、柔和な顔つきになっていた。
「ただいま」
と近藤の家に帰ると、おばあちゃんが走って出てきて
「どうだった?ちゃんと話は出来たかい?」
「はい、あっちのおばあちゃんともたくさん、お話をしてきました」
「そうかい、良かった!ささ中へ今、昼ご飯をみんなで食べてるが、あんた達も食べるかい?」
「いえ、あちらで頂いてきました」
そして、居間に行くと
「おかえり〜!座ってお茶でも飲みなよ」
と裕一さんに声をかけられた。
「はい、いただきます」
ここの家もだんだん慣れてきて、居心地が良くなっていた。
お茶を飲みながら話していると
「なぁ、涼平君達はもう、帰っちゃうのかい?」
葉菜の顔を見ると下から俺にお願いの顔をしている
「どうしようかと。もう少し、葉菜の両親の故郷を見て周りたいとも思うのですが…」
俺は素直にそう言ってみた。
「そうかい!じゃあ、うちに泊まっていきなよ。色々、案内したい所もあるし、とりあえず明日、川にでもいかないか?姉ちゃんと、よく遊びに行った所なんだ」
「いいんですか?」
「もちろんさ話だけ聞いてサヨナラじゃ寂しすぎる。是非、もう少し居て遊んでって欲しい」
「ありがとうございます」
「良かった!涼くん釣りは?」
「あっ僕は釣りは趣味ですよ。今、住んでる所は海のが近いから海釣りですが田舎では川ばかりでした」
「あっじゃあ!良かった。明日は僕と釣りをしに行こう!葉菜ちゃんもいいかい?」
「ええ!是非」
そんな会話をしていると突然
「駄目だ!」
とおじいちゃんが叫んだ。
「親父、なんだよお!」
おじいちゃんは、祐一さんの側に来ると指をさし、その指を上下に振りながら
「おーまーえーの下手くそな!釣りでは涼平君が坊主になっって可哀想だろ!ワシも行く!」
「えっ?親父も?」
「そうだ!何か悪いか?」
「あっいや、別に…」
「えっ!おじいちゃんも行くの?じゃあ、僕たちも行きたい!」と裕太君
「私も行くぅ」と絵美ちゃん
「おじいちゃんは釣り名人だもんな〜楽しみ〜!」
「そうかい、そうかい、じいちゃんの釣り竿を貸してやろうか?」
「ほんと!じゃ選んでもいい?」
「ああ、いいともさ着いてこい」
「私もいくぅ」
そう言って、おじいちゃんと一緒に裕太君と絵美ちゃんは釣竿を見に行ってしまった。
「あら!それじゃ私達も行かなきゃ。明日は川辺でバーベキューね。お買い物しなくちゃ!お義母さんも行きましょ」
「あっ?…ああ」
「ほら、葉菜さんも食べたい物を選んで欲しいから一緒に行きません?」
「はい、行きます」
「あなたバーベキューの用意とかよろしくねぇ」
と言って美希さんとおばあちゃんと葉菜は、部屋から一緒に出ていった。後に残された祐一さんが目を丸くしてキョトンとしてた。
「あの…何か俺、悪い事しちゃいました?」
とバツが悪く聞いてみると
「いや…あまりにもビックリして…そのさぁ…親父は今まで孫を可愛がるとか一緒にどこか行くとか全然ない人で…俺でさえ一緒に釣りなんか何年も行った事がなかったんだ。
お袋と美希もいわゆる嫁と姑って感じで、ギクシャクしててあまり仲が良くはなかったんだ。それが今回、やけに協力的でさ俺が
”なんか、やけに協力してくれるじゃん”
って言ったら
”私だって、二人の子供の母親なのよ!お義母さんの気持ちは痛いほどわかるわ!今までは、どう話していいかわからなかったけど、この事でお義母さんがどれだけ、苦しんで来たかわかったわ。だから私も精一杯に協力する”
って言ってくれて俺も嬉しかったんだけど、今まで飯も滅多に一緒にする事はなかったし、ましてや買い物なんて一緒に行った事もなかったんだ」
「そうなんですか…」
「君たちが来てから、この家も明るくなって…まるで姉ちゃんがいた頃みたいだ。ほんとに姉ちゃんは帰って来たんだな…」
祐一さんはグスッと涙を拭った。
「俺も変わらなきゃな…」
祐一さんが呟いた。
「えっ?何をですか?」
「いや…なんでもない…。バーベキューの用意をするから涼平君も手伝ってくれる?」
「はい」
次の日は、家族総出で川辺へとむかった。俺達がバーベキューの準備をしていると
「あの…こんにちは…」
「徹君!何故ここに?」
おばあちゃんが驚いて近くに走って行く
「俺が誘ったんだ」
「祐一!」
祐一さんは徹さんの前に行くと
「あの…徹さん。今まで本当にすみませんでした。僕…わかっていたんです。貴方のせいじゃないって…でも、誰かのせいにしたくて、逆恨みみたいなガキくさい事をして…情けない。
ずっと姉ちゃんと宏行さんの事を気にかけてくれてウチとの間に挟まって…。苦しんでたのは貴方も同じ、いや!少なくとも俺以上だったのに…本当にすみませんでした」
頭を下げる祐一さん
「祐一君。頭を上げてくれないか?もう、いいじゃないか?もう、悪い事は忘れよう。僕もずっと悩んできた。二人の家出を手伝って良かったのかと…何度も後悔もした。ここの家族にも申し訳なくて…。
でも、あの子達が来てくれて要約、良かったんだって思えるようになったんだ。何だか色んな事に決着が着いて、前に歩いて行ける気がするんだ。もう、後ろを振り返るのはやめよう。今日は招待してくれて本当に嬉しかったよ。ありがとう」
「徹さん、ありがとう…」
「あーパパ泣いてるぅ」
子供達に言われ、
「パパは泣いてなんかないぞ!ほら、でかい魚を釣ってこい。じいちゃんの釣り竿がなくぞ」
それからは、ウチの実家みたいにワイワイ盛り上がり、長年の確執が無くたなったようだ。その後は、両親の思い出の地や観光地などを案内され帰る事となった。奥瀬の家に挨拶に行き、
「また、来てね元気で」
おばあちゃんに再三言われ。葉菜も
「約束します。おばあちゃんとなつさんもお元気で」
と言って別れてきた。
その後、荷物を載せ、近藤の家の前で家族全員揃っての見送り、
「結婚する時は教えてね。仲良くするんだよ」
「はい」
「わからんぞ、夫婦ってのは、いつ何時、何があるかわからん」
「まぁ、お父さん!そんな事言って!」
「わからんじゃないか!これからいろいろあるんだ。それでも何かあったら、ここがあんたの実家だ。いつでも帰ってくるがいい」
「まあ、まあ、そんな言い方しか出来ないのかい!そう、葉菜ちゃん。ここがあんたの実家だ。ふたり仲良くまた来ておくれ」
「実家!私に実家があるのね」
「そうだよ」
「嬉しい!ありがとうございます。また、必ず来ます」
「元気でな。涼平君、また釣りに行こう」
「私達も楽しかったわ、いい思い出になったし裕太も絵美もすっかり貴方達に懐いてしまって」
「うん、お兄ちゃん、お姉ちゃんが来てから何だか楽しい事がいっぱいあったよ。また来てね」
「裕太君、絵美ちゃんありがとう。年の離れた従兄弟だけど、よろしくね」
「うん!」
「いろいろありがとうございました。また、遊びに来させて頂きます」
俺と葉菜は、深く頭を下げた。
「それじゃあ…」
「気をつけてねー」
みんなに手を振られ、近藤の家を後にした。
車に乗ると葉菜は、ぼぉとしながら
「涼ちゃん、私にも実家ができたのよ!実家なんて私にはない言葉だったわ」
「うん、良かったね」
「涼ちゃんと出会ってから、考えられない事がたくさんあったわ。まるで奇跡が起こったみたい」
「そんな、オーバーな…」
「ほんとうよぉ!ちょっと前までの私には家族と呼べる人なんていなかったわ。それが、おばあちゃん、おじいちゃん、お母さん、お父さん、お兄さん、お姉さん、姪っ子、従兄弟たくさん家族が増えたのよ!」
葉菜は頬を紅潮させ、嬉しそうに話した。
「なによりも、パパとママの過去がわかって…私、パパもママも大好きだったけど人にはやっぱり中々言いづらかったりしたけど、もう大丈夫!パパとママは私の誇りだわ!誰に聞かれても堂々と話せる。そんな奇跡が起きたのよ!」
興奮しながら話す葉菜。なにげに
「家族は、もひとり増えるだろ…」
と聞いてみた。
「えっ?だぁれ?」
イタズラな顔で俺を見る。
「気づかないのかよ」
俺は不満気な顔をして言ってみる。
「はいはい、素敵な旦那様が増えるのね」
そう言われて、俺はあっという間に顔が熱くなり赤くなるのを感じた。横で俺を見ながら葉菜がクスクス笑ってる。照れながら、
「幸せにする!って、はっきり言えないけど、不幸にしたりはしないよ」
「涼ちゃんがいるだけで私は幸せよ」
「俺も葉菜が幸せって、言ってくれるのが一番幸せ!」
それ以上は言葉にならない程に照れまくって嬉しくて黙ってしまった。その様子を葉菜は笑顔で見ていた。
(俺も変わらなきゃな…もっとしっかりして葉菜を支えられるようになんなきゃ!)
そして、この一週間にあった事を喋りながら、心も軽く東京へ向かった。