第16話 大騒ぎの食卓

「りょう〜はなちゃ〜ん、みんな揃ったよぉ」

オカンが呼ぶ

「おう、今行く!」

葉菜を連れて下に行き、居間の障子を開けて、俺は固まった。

「うぉい!」

「えっ何だい?」

「きょ、今日は家族以外にも誰かくるのか…?」

「いや?」

「いやって…この量…」

二間続きの居間を全部開けて机3台をがっちりひっつけて、その上には、とんでもない量の食い物が並んでいた。

炒めもの、煮物、揚げ物、酢の物、巻き寿司…それも、一品一品がハンパない量。

「だって、足りなかったら困るだろぉ。ねぇ」

「そうよぉ、お義母さんと私で頑張ったのにぃ」

「ねぇ、ママ、ゆりのカレーは?」

「ああ、ちゃんと作ってあるよ」

(カ、カレー?まだ、あるのか!)

「それにしても、困ったわねぇ…これじゃあお造りを出す場所がないよ」

(!!!)

「もう、充分だろ!」

「あら、そんなこと言ったて、やっぱり、お造りないとねぇ。」

俺があんぐり、口を開けていると

「まぁ、いいじゃないか。母さん達もお前達が来るって、張り切ってくれたんだから、とりあえず、座れ座れ」

親父に言われ

「あっまあ…」

俺は、それ以上は言えず、親父、孝兄、哲也の順で座ってる横に葉菜と座った。そして、面子が揃ったところで、瓶ビール、日本酒これまた、どんどん運ばれてくる。

「葉菜ちゃん、お酒は?」

すみねぇが声をかける

「あっ私は…」

「葉菜、飲んでおけ。ここは、飲んだもん勝ちだぞ、あの豪傑な女ふたりもめちゃくちゃ飲むぞ!」

俺は耳打ちするように言った

「なんか、言った!」

「あっいや…なにも…」

(すみねぇもすっかりオカンに似てきてやがる)

「じゃじゃあ、ビールをお願いします」

「はいはい」

「みんな、飲み物は、行き届いたねぇ?」

「かんぱい!かんぱ~い!」

すっかりテンションの高い姪っ子ふたりは、はしゃぎながら喜ぶ

「じゃあ、涼の久しぶりの帰郷と葉菜ちゃんにかんぱ〜い!」

待ちきれない親父は、さっさと乾杯の音頭をとって、宴会?は始まった。

(葉菜も楽しそうだし、賑やかなほうがいいか…)

食べ終わる頃、姪っ子二人が俺のところにきた。

「おじちゃんと、このおねえちゃんは、なかよしなの?」

「ちがうよ!ゆり。こういうのはね、らぶらぶっていうのよ」

「どこで、そんな言葉を覚えたんだよぉ」

「あたりまえよぉ。まゆはもう、おとななのよ」

(おとなって…まだ、小学二年生…)

「ちょっちょっと会わないうちに、大人になったんだね…」

「そうよ!」

したり顔で、こたえるまゆ。

「いったい誰に似たんだか…」

ボソッと言うと、考兄が

「お前じゃない?昔から、ませてるって言われてたろ?」

「ちがう!すみねぇだろぉ」

「否定はせん」

考兄はシレッとして答えた。そんなこんなでワイワイガヤガヤ、我家らしい、食卓だった。

そして、宴もたけなわになってきた頃、突然、オカンが

「ところで、あんた達、式はいつだい?」

ときりだした

「ぶぅぅぅっ!」

俺は飲んでるビールを思いっきり吹いた

「きゃーきたなーい!誰かタオル〜!ぞうき〜ん!」

すみねぇが叫ぶ

「うぇ、ゴホッゴホッ」

咳き込む俺に葉菜が

「大丈夫!?」

と慌てて、俺の背中をさする

「あっゴホッゴホッ!うっだっだい!」

「ほら、涼、タオル!タオル!顔拭きな」

俺は顔を拭くと、なんか臭う

「くさっ」

と言うと、

「あっ、ごめん。それ雑巾だった」

ワナワナ震える俺に、悪びれる様子もなくオカンがタオルを葉菜に渡し

「葉菜ちゃん、拭いてあげて〜」

と言ってると、今度は

「うわぁぁん!」

子供の泣き声

「あ~!ゆりがびっくりして、ジュース倒したぞ!」

もう、大騒ぎになった。

「じゅっ!順序ちゅうもんがあるだろ!いきなり突然、聞くことかよ!」

「ごめん、ごめ〜ん」

そこら中を拭きながら、やはり悪気のないオカン。

「とりあえず、俺、着替えてくるわ!てか、ちょっとシャワーで落としてくる」

服にも顔にもビールがかかってびしょびしょだ。

「ゆり、ごめんなぁ」

「あぁ、この子達、もう眠いのよ。昨日からおじちゃん来るって興奮してたから、パパ!」

「おう、じゃあ俺らも、もう、そろそろ行こうか?ゆり、おいで、だっこ」

「あ〜ゆりだけいいなぁ」

「まゆは、もう大きくなったでしょ?さっき大人になったって言ってたじゃない」

「だってぇ〜」

「いい、いい、まゆもおいで」

「わぁい」


考兄は二人とも肩に抱き上げて

「じゃあ、おやすみ」

と言って、自分達の離れに行った。俺はシャワーを浴びて着替えて、また戻った。親父も

「ワシも明日、タケさんと約束あるから寝るかな、葉菜ちゃん、ゆっくりしてってな」

と去って行った。オカン達はバタバタと片付けを始める。

「あっ!私も…」

葉菜が食器を片付けようとすると

「ああ、いいよ、いいよ気にしないで、ゆっくりしてて」

とオカン。俺も

「やめとけ葉菜。あのふたりの連携のスピードにはついていけないよ」

「う、うん」

葉菜は座り直す。そして、俺と葉菜と哲、三人が残った。俺達は部屋の壁にもたれかかって、俺と哲はビール、葉菜はいつからか、お茶に変えて飲んでいた。

「それにしても、哲也さんも澄香さんにも本当に血の繋がった家族みたい」

「ちょちょ、ちょっと待った!」

「ん?」

「いや、その哲也さんって、やめてくれよぉ。哲でも哲也でもいいから…」

「ええ、でも呼び捨ては、ちょっと…」

葉菜が困った顔をする

「じゃあ、哲ちゃんでいいかしら…」

「う〜ん、葉菜ちゃんに呼び捨ては無理か、哲ちゃんでオッケー」

俺はジロっと哲也を見た

「何だよ?嫉妬か?」

「んな事ある訳ないだろ!」

「うふっ涼ちゃんは、ここに来てから。私の見た事ない顔ばかりするわ」

そこで、すみねぇが来て

「涼たちは、まだ飲むの?」

「う〜ん、まだ、ちょっとな」

「じゃあ、缶ビールに変えて」

「おう、サンキュー!」

「澄香さんもお兄さんのお嫁さんって言うより、ほんとのお姉さんみたいだし」

「あ〜すみねぇはなぁ」

と俺の方をニヤニヤ見ながら、哲が言う。

「うっさい!」

「えっ?何々?」

興味津々に聞く葉菜。

俺は憮然として缶ビールを開けて飲んだ。