第38話 家族

     夕飯を食べに、母屋へと向かった。流石にこんな体で帰ってきて、家に入りずらい…

しかし、葉菜がさっさと開けて入っていく。

「ただいまぁ」

すっかり、家に慣れてる様子。声を聞きつけた。姪っ子達が

「あーりょうちゃん!やっときたぁ〜」

「おかえりい〜」

と元気に迎えてくれた。何もわからない子供達の声に逆に救われた。

「はなちゃんが、ずっと、まってたんだよぉ」

「ほんとか!まゆとゆりも待ってたか?」

「うん!まってた。まってた!はやくはやく!なかにおいで!」

俺の腕を引っ張ると、居間へと連れて行った。中に入るといきなり

「おっせぇーよぉ!俺、腹減ってお腹と背中がひっつくかと思ったぜ!」

哲が叫ぶ。

「あっ!わりぃ、わりぃ!」

「親父さんは。しくって、落ち込んでるしよぉ」

「悪かったよぉ…つい口が滑っちゃたんだ…」

ちっちゃくなる親父

「もう、お父さん、こう言う事は夫婦で話してからだろ」

「そうよぉ、

”貴方、子供ができたのよ”  ってねぇ」

「何言ってんだ。澄香なんか、俺より先にお袋にペラペラ喋ってたじゃないか」

「あっ!そうだっけ…アハハァ。あっ涼!ご飯ご飯、子供達は食べさせたけど、みんな待ってたから」

「うん、ありがとう。お待たせしてゴメン」

変わらない態度で俺に接してくれる家族。

「あっ料理、冷めちゃったわね。温めなおさなきゃ」

「はい」

と返事をして、葉菜が冷めた料理を運ぼうとする

「やめろ葉菜!重いもの持ってお腹にさわったらどうするんだよぉ」

「重い物って…」

「ほら、妊娠中は重い物を、持っちゃいけないって言うじゃないか!」

「そんなに重くないわよぉ」

「そうよ!それに、動かないとかえって産む時、大変になるのよ!」

「葉菜は、すみねぇみたいに頑丈じゃないんだよ!」

「失礼ね!今からそんなに、親馬鹿っぷりで、先が思いやられるわよ」

「そんな事を言っても、なぁ葉菜」

「もお〜涼ちゃん!うるさい!」

すっかり強くなった葉菜に怒られて、俺は諦めて座る。

出された料理は俺の体を考えての食事だった。俺だけ特別でもなく、みんな何事もないように、ガヤガヤしながら食べている。そんな何気に気を使ってくれてるのも、嬉しかった。俺は久しぶりに美味しく飯を食べて、食後のお茶を飲んでいた。

「そんで、あんたたち、式はいつにする?」

「またか!前も言っただろぉ!式はやんないって…」

そこで、オカンが

”バンッ!”  と机を叩いた

「それは、駄目だよ!都会では、いいかもしれないけど!ここでは駄目だ」

俺はびっくりしたが、すぐ気づいた。

(そうだ、こんな田舎では大事なのは、入籍よりも、むしろちゃんと「お嫁に来ました」と言うお披露目をする事だった。特に他所から来た葉菜は、ちゃんとそういう場で紹介しないといつまでも他所者だ)

「ごめん、母さん…」

「わかりゃ、いいんだよ。ウチで簡単にやればいいんだから、それにね、ほら、こっちに来てごらん」

「うん…?」

奥へと連れて行かれた。みんなもニヤニヤして、着いてきた。

「見てごらん」

襖を開けると、そこには、白無垢が掛けられていた。

「あっ…これ…」

「向こうのおじいちゃんとおばあちゃんがね。娘…に彩に着せてやりたかったって、送ってくれたんだよ。だからね、ちゃんと着せて写真も撮って、送ってあげなきゃね」

「うん…これを葉菜が着るのか…綺麗だろうな」

その白無垢は、まるで別世界にあるように綺麗で、俺はそれを、ぼぉっとして、見ていた。

「ふふん、着付けは、私とお母さんで、ちゃんとお腹に負担がかからないようにやるわ。でも、流石に髪型はねぇ。カツラになるし美容師さんに頼むわ!あっ化粧も私で良ければバッチリよ」

そう言うすみねぇの顔を、ジッと見て、葉菜の方に向き直し

「葉菜、やっぱり化粧も美容師さんに頼もう」

「何よ!私だって日夜、週刊誌でちゃんとメイクの勉強はしてるのよ!」

「そうだ、澄香が化粧すると他人といる気がするくらいだ」

「ちゃっと、パパ!それったら褒めてのけなしてるの!」

「あっ…いやいや、その…」

俺はその様子に声をあげて笑った。

「じゃあ、涼、いいね」

「うん」

「葉菜ちゃんもお腹が大きくなるから早い方がいい、二週間のうちどうだい?」

「うん、それでいいよ」

「じゃあ、明日、吉日を選んで決めよ」


 

「あの…みんな、こんな体で帰って来て世話をかけちゃうけど、葉菜共々、よろしくお願いします」

と深く頭を下げた。

「なっなっ!突然…!改まって何を言い出すんだんよぉ…」

哲が、今にも泣きそうな顔を慌てて隠して叫ぶ

「だって、そこは、ちゃんと言わなきゃいけないだろ?」

「そうだな、涼平、大人になったな。俺達は家族だ。出来るだけの事はする」

考兄が肩を叩いて、そう言ってくれた。

「婚姻届は、俺に任せとけ!」

「何?お前が書くの」

「んな訳ねぇだろ!役場から持ってきてやるって事だよ。記入は、自分でやれよ」

「わかってるって!あはは」

「まったく、こいつの口の減らねぇのは、ちっとも変わらん!」

「そうよねぇ、でも、それが涼よね」

「さぁ、もう夜も遅い!もう寝よう」

親父は大分、興奮して疲れたらしく、目が眠そうだ。

「うん、おやすみ」

「おやすみなさい」

葉菜も頭を下げる。

「おい、涼平!」

「なっ何?」

「そっちじゃないだろ!」

「あっ!」

俺は、つい自分の部屋に行こうと階段に向かっていた。