第44話 あの日

[あの日]


「じゃあさ、今度の休み車でどこかに出かけない?そうだな海に!」


彼が約束してくれた!嬉しい!


次の日、いつもと変わらず挨拶をした。大丈夫かしら?約束を覚えてるかな?


そうだメモで聞いてみよ!


「昨日の約束覚えてる?」


「もちろん!!」


良かった!夢じゃない。海へ行くなら、お弁当がいいわよね作って行こう。買い物に行って下ごしらえ!今日は早く仕事を終わらせなくっちゃ!


 


夜は、殆ど眠れず。お弁当を作って、約束の時間より早目に着いてしまったわ。でも、遅れるよりマシかな…


ん?!あの車、聞いてたのと似てる、中で誰か手を振ってるわ!


(彼だわ!どうしよう。緊張しちゃう…)


私服の彼もとても素敵。いつもの様に挨拶して、車に乗ると緊張して逆にペラペラ喋ってしまったわ。お喋りしすぎたかしら…。でも、あなたは、いつもと同じ笑顔で私の話を聞いてくれる。


やっぱり、この人が好き…大好き…


あっという間に、海に着いた。真っ青で凄く綺麗。


あなたは、私のお弁当を美味しそうに食べてくれる。


(作ってきて良かったわ!ふふ、玉子焼きが好きなのね)


海が綺麗…近くに行ってみたい。でも…


「サンダルだと、足が砂だらけになっちゃう」


「そういうの、苦手?」


「ううん、車の中が汚れちゃうわ。砂って中々取れないのよね…私もスニーカーにすれば良かったわ」


車を大事にしてるみたいだし…汚したら悪いかな…私は困ってしまった。


「そんな事か?気にしなくてもいいのに!ここは、ちょっと行くと足を洗う所もあるし…第一スニーカーの方が、砂が入ると後でザラザラして気持ち悪くて厄介だよ。」


「そお…?」


「あっ俺、スニーカー抜いじゃお!」


そう言うと、貴方はスニーカーとソックスを脱いで、靴にソックスを無造作に入れた。


「私も、サンダル脱いじゃおうかしら?」


「いいね!そうしなよ」


「うん」


二人とも素足で砂浜に立った。


「キャーあつぅーい」


思わず叫ぶと、彼が手を差しのべてくれた。その手を掴んで波打ち際まで走って行った。


それからは、ふたりではしゃいでたくさん遊んだ。


(彼に私の気持ちは通じてる。彼も私の事を好きでいてくれる)


そうは思っても、告白する事ができない。時間がどんどん過ぎていく。次の約束もできないかしら…


それから、ファミレスでご飯を食べて、またいろいろ話をしたわ。少しでも長く貴方と一緒にいたい…


「夜の海が怖いの」


そう話したら、彼はスマホを急に取り出して、何か見てる。


(なにか、急用かしら?どうしよう…)


「もう少し俺に付き合ってくれる?」


(良かった!)


彼とまた車に乗った。来た道を引き戻しているみたい。


(どうしたのかしら?何か忘れ物?)


そして、さっきまで居た海に着く、彼が防波堤を上がって行く。私も着いていくと、そこには、満月が映る海が広がっていた。


(綺麗だわ…)


呆然としている私に


「どう?やっぱり怖い?」


「……ううん、大丈夫」


「真っ黒じゃない!凄く凄く綺麗だわ…」


月明かりがあなたの顔を照らす。


「俺もたまに、海で夜釣りするんだけど、こんな日が時折あるんだ。でも滅多にこんなに綺麗な日はない。今は月が一番綺麗な時期でしかも、満月だ。天気もいいから、今日が最高だよ。運がいい」


彼は、とても嬉しそうにそう話してくれる。


そうだ、もう本当の事を言ってしまおう!葉菜!勇気をだして


「あの…あのね…私、謝らなくちゃ」


あなたは不安そうに私を覗き込む


「何を?」


どうしよう。嫌われちゃうかもしれない


「あの…怒らないで。お願い。」


「理由を聞かなきゃわからないよ。俺こそ、何かしちゃったのかな?」


「違うの!違うのよ!あの…この間、山下さんから、メモを渡された時…」


戸惑った顔をしてるわ


「メモを渡された時?」


「うん、私…その賭っていうか…そう、しちゃったの」


「賭?はぁ?」


「貴方が待ち合わせ場所に来てくれないかなって…給湯室に来てくれた時みたいに、私を助けに来てくれないかなって…」


「あぁ…」


やっぱり怒ったかしら…でも、今、ちゃんと言わなくちゃ


「私、泣いて泣いて山下さんを忘れられたって言ったけど、それだけじゃないの。その…あの日から、貴方の事が気になって、ずっと……。触れられた時の暖かさや、その時にとても安心したような気持ちが忘れられなくて…」


「それに、俺は引っかかっちゃった訳?」


「あっ、そんなつもりじゃ…」


どうしよう…絶対、呆れてる


「で、賭けには勝ったの?」


「わからないわ…」


もう泣きそう…言わなければ良かった…。


「いいよ、君に勝たせてあげる」


(えっ…?)


「好きだよ。付き合って欲しい」


彼から告白してくれた!


「これで、君の勝ち?」


「うん…そうみたい…」


貴方は、冷えた私の体を抱きしめてくれた。


今にも泣いてしまいそうな私の顔に手を当て見つめて、


唇にそっとキスをしてくれた。


そしてまた、冷えきった私の体をギュッと抱きしめてくれた。私も彼の背中に手をまわす。


月明かりの中、やっとひとつの影になれた。


「もう、帰ろうか?」


「うん、でも…」


「また、来よう。もう少し厚着をして、こんな天気のいい満月の夜に」


「うん、約束よ」


「約束する」


二人して手を繋いで車に戻った。


今はもう離れたくなかった。私達は海辺のホテルに入った。


先にシャワーを浴びてガウンに着替えてソファにー座っていると、彼は心配そうに目の前にかがんで、私の顔を覗き込んだ。


「ちょっと…早すぎるかな?」


「ちっ違うの、そうじゃなくて…その…私…経験ないの…」


「…初めてって事?」


「……うん」


「山下さんとも?」


「うん…他に付き合った人もいたけど、そんな風にはならなくて…」


「君が怖いなら、俺は待つよ」


「そんなんじゃないの。貴方なら貴方ならいいの…ただ、この年で何も無いなんて、恥ずかしくて…」


貴方は微笑んで急に私を抱き上げた。


「キャッ」


私はびっくりして彼の頭にしがみついた、そのままベッドに下ろされて、優しくキスをしてくれた。そして


「俺はめちゃめちゃ嬉しい…」


と言ってくれた。


「貴方の事が大好きなの…」


「俺も…」


(ずっと、貴方と一緒にいたい…)