第43話 泣けない葉菜

そして、俺は病魔に侵された自分の体とさよならをした。


葬儀やら、なんやらでバタバタする。葉菜は、泣く事はなかった。葬儀が終わり俺の遺骨が安置されるとその遺骨の前でずっと、座り込む日々が続いた。家族が心配して声をかけても、あまり反応がない、大樹が


「ママ、ご飯を食べなくちゃ」


と言うと、ようやく反応し、少しの食事をすると、また、無表情で仏間に座りこんでしまう。


 


「葉菜、もう泣いていいんだよ。五年間いっぱい我慢したね。思いっきり泣いて、俺の事は忘れていってくれ」


俺にはもう、君に伝える言葉も抱きしめる腕もない。


もどかしく思うばかりで、行くべき所に行けなくなってしまった。


 


納骨が住み、日常の生活は戻ってきた。葉菜は、車の免許を取り、役場の民生員も兼ねる哲と一緒に、介護士を続けた。


葉菜は泣かずに、頑張って大樹を育てていた。時に笑ったりもするが、いつも陰りがあって、何か違う…


 


いくつかの、夏が過ぎ、また、秋がやってくる。


大樹は中学生になっていた。葉菜は突然


「哲ちゃん、行きたい所があるの。ちょっと遠いけど、付き合ってくれる?」


「うん、いいよ」


「どこ行くの?僕も行きたい!」


「いいわ。ちょっと厚着してね」


「えぇ!まだ暑いよぉ」


「夜の海は冷えるから…」


その、真剣そうな葉菜の顔に大樹は黙った。


そして、また、あの海にやって来た。防波堤を登ると満月が映る海は、あの日と同じで海原に反射した。月明かりが波間でユラユラ揺れていた。


葉菜は、それを見ながらフラフラと砂浜を歩いて行った。その後ろを哲と大樹が心配そうに、着いていった。


海の近くまで、行くと葉菜は止まり、立ち尽くして


その海を見つめていた。


「何も、変わらない…あの日と同じよう…涼ちゃん、あなたと来た日と同じ…」


そう、つぶやいて…海を見ていた。