第46話 笑顔

「準備はいい?」「おう!」「じゃあ!いくわよー!よーーーい!どん!」 その合図とともに、走り出すふたり。しかし、哲はすぐに砂に足をとられ、見事に転んだ。「きゃー、哲ちゃん」 駆け寄る葉菜「もおー何やってんだよぉ」 呆れながら、やってくる生意気…

第45話 一緒に

「あの日の事は、今でもはっきり覚えてる…嬉しくて嬉しくて、どうしたらいいのか解らないくらいドキドキして…」波音が静かに響く。「時が流れて…いろんな事がたくさんあって…忘れてしまった事もたくさんあるわ。だけど、あの日の事は、ずっと覚えてる…」葉菜…

第44話 あの日

[あの日]「じゃあさ、今度の休み車でどこかに出かけない?そうだな海に!」彼が約束してくれた!嬉しい!次の日、いつもと変わらず挨拶をした。大丈夫かしら?約束を覚えてるかな?そうだメモで聞いてみよ!「昨日の約束覚えてる?」「もちろん!!」良かっ…

第43話 泣けない葉菜

そして、俺は病魔に侵された自分の体とさよならをした。葬儀やら、なんやらでバタバタする。葉菜は、泣く事はなかった。葬儀が終わり俺の遺骨が安置されるとその遺骨の前でずっと、座り込む日々が続いた。家族が心配して声をかけても、あまり反応がない、大…

第42話 約束

それは、真夏の暑い日だった。俺は珍しく気分が良かった。葉菜に膝枕をしてもらい、濡れ縁に出て庭を見ていた。軒先の風鈴が小さな風に揺れて”チリリ~ン”と涼しげな音を鳴らす。大樹が、走って俺の前に来る。「パパ!僕!蝉をとったよ!ホラ!」汗まみれで…

第42話 約束

それは、真夏の暑い日だった。俺は珍しく気分が良かった。葉菜に膝枕をしてもらい、濡れ縁に出て庭を見ていた。軒先の風鈴が小さな風に揺れて”チリリ~ン”と涼しげな音を鳴らす。大樹が、走って俺の前に来る。「パパ!僕!蝉をとったよ!ホラ!」汗まみれで…

第41話 頼み

そんな日々の中、俺はどうしても、哲に伝えたい事があった。迷いに迷ったが、このまま死んでも悔いが残ると、意を決して誘った。場所は母屋の二階の俺の部屋。葉菜が「着いていこうか?」と心配したが「いや、いい…自分の足で行く!」と断った。俺は母屋の一…

第40話 五年の歳月

そして、五年の歳月が経った。俺は葉菜の奇跡で、入退院を繰り返しながらも、医者も驚くほどの生命力で生きながらえていた。生まれた子供は男の子だった。名前は生まれる前から性別を聞いて、散々考えた挙句『大樹(たいき)』と名付けた。太く逞しく大きな樹…

第39話 祝言

二週間の間に俺は、転院先の病院に行ったり、連絡してなかった、岩下に電話をしたり、後、少しでも収入をとパソコンで副業も始めた。と葉菜は、「そんなに、無理しなくても…」と心配したが、「多少の貯金は貯めてきたけど、まったく、無収入ってわけにはい…

第38話 家族

夕飯を食べに、母屋へと向かった。流石にこんな体で帰ってきて、家に入りずらい…しかし、葉菜がさっさと開けて入っていく。「ただいまぁ」すっかり、家に慣れてる様子。声を聞きつけた。姪っ子達が「あーりょうちゃん!やっときたぁ〜」「おかえりい〜」と…

第37話 まさか!

親父は、泣き伏す俺を見て、照れくさくなったのか慌てて、後ろを向いて「あっああ!トイレは無くちゃ住めないから、何とかしたが、まだ、台所とか風呂が使えなくって、悪いな。工事をするから、昼間は、音がうるさくなるから、母屋に居ればいい」「い…いや!…

第36話 父さん

どれくらい寝ただろう。久しぶりに、いい夢を見て目が覚めた。葉菜もいつの間にか眠ってたらしい、起きた俺に気づいて、目を覚ます前と変わらずの笑顔で「調子はどう?」と聞いてきた。「絶好調!」昨日までの重さが、嘘みたいに無くなっていた。もちろん、…

第35話 我が家

暫くして、後ろから「ほら、疲れるから家に入りなさい」鼻声のオカンの声がした。そして、カタカタと足音をさせて慌てて、家に入って行った。俺は葉菜の顔を改めて見て、手を繋ぎ母屋に行こうとすると「違うわ、こっちよ」と言って、昔の横屋の前に連れて行…

第34話 奇跡

実家に辿り着く。俺は車から降りて、ぼぉっとしながら母屋に向かって行くと、チロが変わらず喜んでシッポをブンブン振りながら、待っていた。「チロ、ただいま…」チロを撫でていると、ガラっと引き戸が開いて誰かが出てきた。(ああ…母さんか…)と顔を上げる…

第33話 闇

そんなある日、会社の健康診断の結果が来た。無念にも再検査の通知。(なんだ?)最近、少し疲れやすい所はあったが、特に何か悪いと言う感じは無かった。しかし、再検査の結果を会社にも提出しなければならないし、何よりも、結婚という大事の前に体を壊し…

第32話 岩下との再会

そして既に真夏の暑い季節になっていた。東京の街中を不動産屋に向かおうと葉菜と歩いていた。向こうから、人混みに紛れ懐かしい顔…「岩下だ!」スーツも前よりいいものをバリッと着て、土曜日。休日出勤か?忙しくやってんだな。俺は鼓動が激しくなり、冷や…

第31話 結婚に向けて

東京の葉菜のアパートへと帰宅。一休みして、「実家に電話しなきゃな、あっ!俺のな」「ふふ、わかってるわよぉ」「だって、これからは葉菜の実家もあるんだぜ」「そう、私の実家」葉菜は、鼻をツーンと上げ威張ったようなそぶりで、答えた。俺はニヤニヤし…

第30話 変わらなきゃ

次の日は、朝ご飯をご馳走になってから奥瀬の家に向かった。先日と同じように立派な門の前に立ちインターホンを押した。ほんの少し前の事なので記憶に新しく、それを思うと状況は変わっていても、やはりドキドキする。(思えば、ここから何もかもが始まった…

第29話 納骨

今日は、昼まで時間がある。旅館をチェックアウトして、近くの観光地に行ってみた。いつもの旅行ならあちこち見ては、はしゃいで喋ったりワイワイふたりで楽しく過ごすのにやはり、気が乗らないのか、ポツリポツリと会話し、気は落ち着かず旅行気分にはなれ…

第28話 お願い

次の日、約束通りにまた近藤の家に行った。おばあちゃんは待ちかねていたように飛び出してきた。葉菜と俺は仏間でパパとママに挨拶して昨日の様に居間に座った。メンバーは昨日と同様だった。葉菜はそこで、両親の事を話した。高橋さんの事。旅行に行ったこ…

二人が家を出たあと

「彩が夜になっても、帰って来ない!友達と出かけるといってたが誰だかわからない。大騒ぎになったよ。そこら中を探し回ったり、電話したりしてもわからない。もちろん、警察にも連絡したさ。結局一晩帰って来なくて、彩の部屋に何か手がかりはないかと、探…

第26話宏行と彩

食事が終わりコーヒーを出してくれた。俺たちは、まんじりともせずそれを飲んでいた。そして、祖母が話し始める「奥瀬の家には行って来ただろ?」「はい」「大きな家だったろう?あそこの旦那は小さな工務店を一代で名の知れた大きな建設会社に成長させた、…

第25話 近藤の家

車を走らせて10分も経たずにそこへ辿り着いた。それらしき家の前に車を止めて表札を確認すると『近藤』と表札があった。葉菜と門扉の前に立つ、ここの家も奥瀬の家ほどではないが母屋、離れ、庭とそこそこに大きい。やはり、さっきの事もある。少し躊躇して…

第24話 両親の故郷

決行の前日、俺は仕事が終わると一旦自分ののアパートに帰り車を取りに行き、葉菜のアパートの近くのいつもの駐車場に止めておいた。準備は前々からしてきたのでする事もない。葉菜が必要な物を再度チェックしておいてくれた。そして、寝に入ろうとするが、…

第23話 探そう

1週間ぶりに東京へと帰ってきた。葉菜の荷物はオカンが「また、来るんだから置いていきなよ」と言ったので、半分くらいになっていたので、先に俺のアパートに行き車を置いて葉菜のアパートに行った。最寄りの駅に到着した時には、もう夕方になっていた。冷蔵…

第22話 明けましておめでとう

そこにあったのは、雀卓だ。「大晦日の年越しは、麻雀だ!」「はぁ?」呆れた顔の葉菜に、「この勝負、絶対負けられない!」俺は拳を握りしめる。「麻雀って…お金をかけるの?」葉菜が心配そうに聞く「身内で金をかけても仕方ない。罰ゲームだ!それも過酷な…

第21話 忙しない大晦日

次の日は大晦日で、朝からオカンとすみねぇは、おせち料理や年始の準備に余念がない。親父と孝兄もいなかった。「あれ?父さんと孝兄は?」「ああ、タケさんとこに手伝いに行ったよ。健に頼まれて」「なるほど…昨日、タケさんを足止めしたしな…」俺達は、朝…

第20話 故郷の星空

喋ってるうちに、通ってた小学校に着いた。「もう、廃校になっているからな…でも、今は避難所とか村民の寄り合い所とかゲートボールに使ったりするので、当時の小遣いさんが住み着いて管理してくれてるから、廃屋にはなってないよ声かければ、中に入れる」…

第17話 押しかけ女房と同じ日に生まれたふたり

「すみねぇはさ、年も俺らよりいっこ上でガキの頃は考兄より俺らとの方が仲が良かったんだ」「あっそうなんだ?だからあんなに、仲良しって言うか、言いたい放題っていうか…」「まあ、この村じゃ、子供が少ないから男も女も、みんな混じって遊ぶんだ。すみね…

第16話 大騒ぎの食卓

「りょう〜はなちゃ〜ん、みんな揃ったよぉ」オカンが呼ぶ「おう、今行く!」葉菜を連れて下に行き、居間の障子を開けて、俺は固まった。「うぉい!」「えっ何だい?」「きょ、今日は家族以外にも誰かくるのか…?」「いや?」「いやって…この量…」二間続きの…