第39話 祝言

   二週間の間に俺は、転院先の病院に行ったり、連絡してなかった、岩下に電話をしたり、後、少しでも収入をとパソコンで副業も始めた。


と葉菜は、


「そんなに、無理しなくても…」


と心配したが、


「多少の貯金は貯めてきたけど、まったく、無収入ってわけにはいかないよ。病院にも行くし、子供が産まれたら金はいる。俺は父親になるんだぜ」


「まぁ…それもそうだけど…とにかく、無理しないでね」


「わかってるって」


そして、あっという間に、二週間が経ち、いよいよ


祝言の日』


となった。俺の田舎では、結婚式とは言わない。祝言と言う言葉が相応しい。


と言っても、俺たちはお披露目だけをする事にした。


婚姻届は、前日に出した。葉菜は


「酒井 葉菜」


となった。それだけでも俺は充分嬉しくて始終、ご機嫌で役場に提出する時は、哲にニヤニヤ笑われた。


そして、当日となった。


「りょ〜お〜!出来たわよぉ〜!」


袴姿の俺は慌てて見に行く、一緒にいた親父達も来る。


襖を開けると、白無垢に着替え椅子に座る葉菜がいた。


まるで、不可触の女神だった。神々しくて、触ることすら出来ない俺の女神が座っていた。


俺は言葉をなくして、ボーっと見ていた。


「ほら、涼!何か言ってあげなさいよ」


「あっ…葉菜。とても綺麗だよ…」


「葉菜ちゃんは、元も綺麗だから映えるなぁ」


「はなちゃん!きれい〜おにんぎょうさんみたいよ」


「わたしも、はやくおとなになって、きたーい!」


「駄目だ!まゆもゆりも、そんなに早く行かなくていい。」


考兄が慌てて、二人を抱きしめる。すみねぇが


「もお、そんな事を言ってたら、お嫁に行けなくなっちゃうわよ」


と涙を拭いて、三人を見つめてた。


「葉菜ちゃん、涼平、おめでとう。幸せになるんだよ」


「あの…みなさん」


目に涙を貯めた葉菜が椅子から立ち上がり、ゆっくり座り手をつく、その姿にみんな慌てて座る。


「いろいろ、お世話になり、本当にありがとうございます。どうか、これからもよろしくお願いします」


と頭を深く下げた。オカンは涙を浮かべながら


「葉菜ちゃん。こちらこそ、こんな田舎にお嫁に来てくれてありがとう」


と同じく手を着いて頭を下げ答えた。


「さぁ、みんな待ってるから写真をとって、お披露目しましょ!」


俺達は、写真を撮り、祝宴の席に着いた。ひととおりの挨拶を済ませ。宴となった。


しかし、何だか変だ。


(何だろう……)


妙な雰囲気に、ハッとした。


(くんくん…酒の匂いがしない!)


目の前で日本酒の瓶から酒は注いでるが、酒の匂いがしない!俺はお膳を思い切り


”バン”と叩いた。


シーーーンとなる、一同


「何を考えてるんだか!わからんが、いくら俺が病気だからって!こんな茶番に付き合わされるのは、ごめんだ!」


「なっ…何を言ってるんだ?涼平…」


「酒の匂いがしねぇんだよ!狸おやじ達め!」


俺は一同をジロっと見た。


「それに、タケさん!そのビール…!泡がたってないぜ」


「あぁ…!タケさん。だから、ノンアルにしろって言っただろぉ」


「うるせーあんな、まがい物を飲むくらいなら、烏龍茶を飲んでた方がマシだ!」


この村の年寄りは、安定しない農業を汗しながら作物を育てたり、少ない年金で暮らしている者も多い。その少ない収入で御祝儀も持ってきてくれている。


「母さん。いいかい?」


「もちろんだよ!」


「健!悪いが仕事だ」


出席していた健に声をかける


「まいど!しょーばい!しょーばい!」


「お前なら、この狸おやじ達が飲む酒の量がわかるだろ?」


「当たり前だ。全部、把握済みだ」


「じゃあ、その量を今から、持って来てくれないか?」


「了解!あざっす!これで、涼兄の為に仕入れた祝いの酒も無駄にならずに済む」


「祝いの酒って!やっぱりお前、アレ!」


タケさんが立ち上がる。


「はっはーん!親父やっぱり、気づいてたか」


「当たり前だろ!あんな上物、滅多な事じゃ口に出来ねぇ」


「残念ながら、アレを出したら、お袋もついて来るぜ」


「あっあぁぁ~」


へたり込む、タケさんを見て、みんな大笑いだった。


「じゃあ、あんた達はお酒が来るまで、着替えちゃいな」


「うん、そうする」


俺達は着替え、酒が届いたので、また、祝宴の席に戻った。


健が木箱に入った酒を持って近寄ってきた。


「あっ…あの、涼兄、少しくらならいいかな?」


「うん、大丈夫だ」


「そうか!これは、俺からのお祝いだ」


健は、大事そうに木箱を開け、中から日本酒の瓶を出した。


「こっこれは、中々のもんで、日本酒が苦手な涼兄だってきっと、飲めるよ」


「ほんとか?じゃあ、健。お前が酌をしてくれよ」


「いいのか?」


「ああ、頼む」


俺は盃を出す。健が溢さないように酒を注ぎ入れる。俺は、それをゆっくり飲み干す。


「美味い!」


「ほんと!」


「うん、この酒を飲んでたら、俺も日本酒好きになってたかもな!」


「にっ日本酒は奥が深いだろ。俺もいっぱい勉強してるんだ。涼兄に認められて嬉しい!」


健は涙を拭いながら、嬉しそうな顔をした。


「うん、明日からでも店主になれるな」


「うぉい!それは、まだちょっと…」


タケさんが叫び立ち上がる。周りから、ドっと笑いが沸き起こり、またなごやかな雰囲気になる。


「じゃあ、みんなにも配るから、少しだけど飲んでくれ!」


「おお!待ってましたー!」


そして、いつもの村の宴会風景となった。


おかんもホッとした顔をして


「もう、そろそろいいだろ。あんた達は奥に行きな」


「そうする」


俺は、みんなに挨拶をして、葉菜とその場から抜けた。


「ああ〜疲れたぁ〜」


「大丈夫?顔色悪いわ」


「ん、疲れただけさ家に帰って寝る」


「そうしなさい」


「うん、いろいろ、ありがとう」


「ああ、いいよ。こっちこそ無理させて悪かったね」


「いいさ、俺も嬉しかった」


そして、俺達は自分達の離れに帰った。二人とも疲れていたので、そのまま眠ってしまった。