第15話 酒井家の人々プラス1
そして、俺の実家に着いた。
「ここ」
「あっ、大きな家ね…」
「まぁ…農家だから土地だけはあるしね…さあ、降りよう」
「うん…」
車を降りて母屋に向かうと、チロが俺を見つけて”ワンワンワン!”とシッポを振って出迎えてくれた。
「チロ!ただいまぁ、俺の事忘れてなかったかぁ」
チロは喜んで飛びついて、おれの顔を舐め回す
「可愛いい〜私も触って大丈夫かしら?」
「雄だし、基本女好きだから大丈夫だよ」
「まっ、やぁねぇ。チロ」
呼ばれてチロは尻尾フリフリで葉菜にスリスリする、葉菜は喜んでチロを撫でていた。チロもゴロゴロして、もっと撫でろのポーズ。
すると、家の中から、
”ドタドタッ!”と言う激しい足音とともに、玄関の引き戸がガラッと開いた。
俺は頭をあげ、そっちを見ると
オカン、親父、それに、考兄、すみねぇ、まゆ、ゆり、ばあちゃん以外全員がゾロゾロ出てくる!
そして、あっという間に葉菜を取り囲む
「あっあっは…」
葉菜が慌てて挨拶をしようと声をだすが
「まぁ、可愛い娘だねぇ」
「ほんとだ!いやいや、涼は面食いだなぁ」
「ちょ…ちょ…ちょっと!」
俺が声をかけると
「ああ、涼?おかえり。」
と俺を一瞥しただけで葉菜の背中をおしながら
「さぁ、疲れただろ?中にお入りよ」
と俺の存在無視
(何が心配してるだ!)
「おい!まゆ。匂いを嗅ぐな!」
「だって、パパ、このおねえちゃん、とってもいいにおいがするよぉ」
「ほんとぉ?くんくん」
「ゆりまで!」
「ほんとだ!いいにおいがする」
「あらあら、都会の香りかしらねぇ」
俺をしり目に勝手に騒ぎながら、家の方にどんどん行ってしまう。俺が呆然としてると、哲が隣に居た。
「なんだ、お前もいたのか?」
「なんだじゃねぇよ!やれ、
”自分に自信を無くしただの。人間関係無理!”
とかぐちぐち言ってたかと思うと”彼女ができた~”
と今度は、帰ってこず、連絡ほぼなしでよぉ。俺が居たら、おかしいか!」
「いや、そんなことないよ。悪かった!感謝してる。ありがとう」
「げっ!気持ち悪!お前が素直だと、こぇ~!てか、彼女いいのか?」
「あっ?うわぁ!じゃあな」
「おう、また、夜来るわ」
「おう!」
俺は、慌てて荷物を抱えて、家に入ると靴を脱ぎ捨て、居間に走って向かった。相変わらず葉菜の周りに集まってワラワラと…。まるで見せ物だ!
「俺たち、早くから起きて、ずっと車で来て眠いし疲れてんだけど!」
と大きな声で言うと、ようやく
「ああ、そうだねぇ。悪かったよぉ」
「てか、まず自己紹介とかあるだろぉ」
「ああ、そうだね。父さん」
「ワシは涼平の父親の正男」
「母親の幸恵」
「兄の孝平」
「兄嫁の澄香です。この二人は、娘のまゆとゆり」
「まゆでぇす。しょうがくにねんせいです」
「あの…ゆりです…しょうがくいちねんせい」
人見知りのゆりは母親の影に隠れて恐る恐る答えた。
「後はおばあちゃんだけど…いま寝てるから、また後ね」
「初めまして、近藤葉菜です。お世話になります」
葉菜はペコリと頭を下げた。
「固い話はいいさぁ。昼ご飯は食べてきたかい?」
「食ってきた」
俺が答えた。
「じゃあ、二階のあんたの部屋で暫く休みな。夜ご飯には呼ぶから」
「わかった!葉菜行こう」
これ以上見せ物にされたらたまらないと、俺は葉菜の手を引いて急いで、上の俺の部屋にいった。そして、部屋を開けると
(!?)
これまたびっくり!布団が二組、ドドンと敷いてあった。
「きっ気がききすぎだろ!こういう時は、立て前でも、他に一間用意するとか…」
「あははは」
葉菜が堪えきれないように、笑った
「もう、なんだか、アレよアレよで緊張がふっとんじゃったわ」
「あっああ…」
俺も肩の力が抜けた。
「まぁ、いいや、疲れたし横になろ」
と布団の上に転がった。
「まぁ、掛け布団の上に…」
「ああ?寒いから中はいろ」
「もう、そうじゃなくてぇ」
「葉菜も、おいで寒いだろ?」
「うん」
二人して、布団に潜り込んで込んだ。
「とても、いい人たちね」
「そっかぁ、俺はびっくりだわ!あそこまで、騒がれるとは思わなかったよ」
「ふふ…まぁいいじゃない。私にはありがたかったわ。」
「そうか?ならいいや」
「ここは涼ちゃんの部屋だったのね。」
「うん、前はベッドとか勉強机とかいろいろあったけど、ほとんど片付けられて今はパソコン机とタンスくらいなもんだけどね」
「アニメのポスターが貼ってあるわ。好きだったの?」
「ああ…昔、ちょっとな!」
そんな事を喋ってる内に、葉菜は疲れたのか、俺の腕枕でいつの間にか眠っていた。俺も、緊張してのか、ホッとして眠ってしまった。
どれくらい、寝てただろう、階下から声がする。
「涼!涼平!寝てんのかい?」
オカンの声だ!俺はその声で飛び起きた。周りを見まわす
(ああ、実家かぁ)
葉菜も目を覚ました。
「寝てた!今、起きたよ!」
階下に聞こえるように応える。
「そうかい?もう、夕方だよ、ご飯の前に風呂に入るかい?あぁ、まず、ばあちゃんに挨拶しな」
「わかった!今行く!」
葉菜と俺は風呂に入る支度をして、下に行った。オカンが車椅子のばあちゃんを連れてきてた。
「ただいま…」
「ああ、茂紀、元気だったかい?小遣いは足りてるのかい?」
「…うん、大丈夫、母さんも元気だったかい?」
「あたしゃ、この通り、いつも元気さ」
「うん、良かった」
「今日は茂紀の好物を沢山作るからね、食べていきな」
「いつも、ありがとう母さん」
そう言うと、ばあちゃんはニコニコ笑った。母は、ちょっと困った顔をしながら、
「じゃあ、ばあちゃん部屋に行きましょ」
と言って、ばぁちゃんの車椅子を部屋に押していった。
葉菜が不思議そうな顔して見ていた。
「ああ…どうやら、俺を叔父と間違えるらしいんだ。痴呆で大体、ぼぉっとしてるんだけど、俺が帰ってくると茂紀叔父さんと勘違いするみたいなんだ。そん時は、良い頃だった事だけを思い出すみたいで凄く機嫌がいいらしいんだよ」
「そうなんだ…」
「さっ風呂入ろ!場所教えるから、葉菜が先に入っといで、俺は、もうちょっとばあちゃんとこに行ってくるよ。あっちにいるから出たら呼んで」
ばあちゃんの部屋を指差して言った。
「ええ、わかったわ」
そして、俺たちは順々に風呂に入り
「飯になったら呼んでー」
とオカンに声をかけ、一旦、また、俺の部屋に戻った。
「お風呂気持ち良かった〜すごく広いのね」
「旅館の家族風呂みたいに広いだろ?じいちゃんが風呂にこだわって改築したから、風呂は広いんだ。孝兄たちも、離れに風呂があるんだけど、たまにみんなで入りにくる。最初、”露天風呂にしたい”って言ってたけど、金がかかるって却下になったって」
「あんなに広いだけでも、随分、贅沢だわ!ほんと気持ち良かった」
「うん、こんな寒い所では、風呂はあったまるね。ウチはシャワーだけとかはなくて、必ず湯船につかるから…。それにしても、腹減ったな、飯まだかな?一応、葉菜も来たから結構、ご馳走が出ると思うぜ」
「ふふ、涼ちゃんの家の家庭料理なんて楽しみだわ」
「期待はずれだったらごめんな」
「お世話になるのに、そんなこと思わないわよ」