第11話 ホームレスのパパとママ

朝になり、君の家へと送って行った。

「上がってく?すっごく古いのよ…」

まだ、離れ難い

「うん」

近くの駐車場に車を止めて、君のアパートに行った。

確かに、外観からしても古さは解る。そんな事は気にならなかった。

「お邪魔します」

中に入ると台所と二間の和室。狭いがキチンとしてある。一部屋は女の子らしくて、君の部屋だとわかる。

もう一部屋は古い家具に……

部屋の隅にの一角に見慣れぬ場所。机、その上に白いシルクの布がかけられた何か、明らかに普通でない場所…しかし、そこに、線香が置いてあったので、何となく解った。

「あそこは?」

思わず聞いてしまった。

「……パパとママの遺骨がまだ置いてあるの」

「安置してないの?仏壇とかはないんだ」

俺はそういうことにこだわる方ではないが聞いてみた。

「……うん。ママがね…

”私達は野良ちゃんだから、何もいらないのよ”

って、ずっとパパの遺骨もここに置いて、毎日、手を合わせてたの、それで私も何となく、このまま…パパとママと一緒にいたい気がして…あの…気持ち悪い?」

君は、心配そうな顔で俺を覗き込んだ。

「そんな事ないよ。手を合わせていい?」

君はホッとした顔をした。

「ええ、お願いします。私も一緒にする」

線香に火を灯して、二人して手を合わせた。線香の横には、写真が置いてあった。まだ、小学生で面影が残る君と若い男女。君の父と母だろう、3人してピースして、笑ってる写真だった。

「ここは、パパとママの部屋だったの?」

「そう、いろいろ、整理したくてもいなくなっちゃう気がして出来ないの。何だかずっと帰って来るような…もう…いないのにね」

「ホームレスだったて言ってたよね」

「………」

「詳しく聞きたいんだ。そんな事で君を嫌いになる事は絶対ない、ただ君にとっては大事な事だろ?知りたいんだよ!」

「わかったわ」

君は心を決めたように俺を見た

「私の部屋で、取り敢えずお茶を入れるわ、あっコーヒーがいい?」

「じゃコーヒーをお願いするよ」

間もなくして二人分のコーヒーを入れてテーブルに置くと君はテーブルの向かいに座った。淹れたてのコーヒーの香りが、広がり落ち着く、君はゆっくりと話し出す。

「パパは宏行ママは彩。ほんとの名前かどうかもわからないけど…」

「そこまでは…」

と言いかけたが、事情がわからない俺には言いきれる自信はなかった。君は話を続けた。

「詳しい事はママから聞いたわ

”葉菜も大人になったから、もういいかな”

って、でも、ホームレスになる前の事は絶対に話してくれなかったの。ただ

”帰れないのよ…”

って言ってた」

「帰らない」じゃなくて「帰れない」…

「パパ達は、家を出てテレビや新聞で見た、公園でブルーシートを敷いて暮らすホームレスがいる公園に行ったの。そこには、同じように訳ありで家を出て来た人やいろんな人がいたらしいわ。

”最初は凄く怖かった”

って…」

「だろうね。随分若かったんだろ?」

(写真を見た感じでも俺と同じか年下な感じだった)

「うん、パパは18。ママは17だったって」

(未成年…、ホームレスになるしかなかったのかな?)

「ブルーシートを持って、ウロウロ落ち着く場所をさがしてたら、その辺にいる人達から

”あんたら見かけない顔だね新人?やたら滅多らに場所取らないでよ!”

って言われて怖かったって、ウロウロしていたら、他の人が

”とりあえず、ネムさんとこ行ったら?”

って」

ネムさん?」

「うん、そんな所でも秩序って言うのか、ルールみたいなのがあって、それを仕切ってるのが ”ネムさん”って言う人みたいだったの、ねむの木の下を根城にしてたからそう呼ばれていたみたい。」

「それで、ネムさんの所に行ったのかい?」

「そう、とても、怖い顔の人で、長い髪を束ねて、髭も延びてたけど、ホームレスでも汚くはしてなかったみたい、テントの中も綺麗にしてて、他の人達とはちょっと違う雰囲気だったらしいわ。だから、何かとみんなも、そのネムさんに色んな相談をしてたみたいよ。そして、パパ達はその、ネムさんに場所を指定されて、ブルーシートでテントを貼って寝る場所を作ったらしいわ」

「何か…凄い話しだね。俺だったらとても無理な気がするよ」

「そんな……それで、そこに取り敢えず落ち着いて、パパは、夜間の工事現場とかで、働いたりして、その日暮らしをしてたの、だんだん、周りの人達とも仲良くなって、仲間みたいに馴染んでいったらしいわ。でも、そんな時……」

そこで、葉菜は急に下を向いて黙ってしまった。

「どうしたんだい?何か言いにくい事でもあるの?あまり、無理しなくても…」

俺は追い詰めるつもりはないので、慌ててなだめた。

「ううん、大丈夫。それでね、そんな生活なのに、その…赤ちゃん…」

「赤ちゃん?子供?」

「そう、ママのお腹に赤ちゃんが…」

「それは、大変だ!」

「うん、家もない。お金もない。でも、パパは何とかしたくて、住み込みで働ける所とかを必死で探しまわったみたい、ママのつわりもあって、周りの仲間にもわかってしまったそうよ。その人達は、

”産むなんて無理だろ?どうやって堕ろすかだろ!”

って散々言われたらしいわ

(確かに、そんな状況で子供なんて無理だ)

「みんな、あまりにもパパが必死だったから、

”あんたらなら、ちゃんと生活出来るようになるから、そしたら、次に出来た子はちゃんと産んであげればいい”

って、でもパパは

”でも…でも…この子は死んじゃう!次の子はもう、このお腹の子じゃないんだ!僕はこの子を殺したくない!”

って泣きながらさけんだそうよ。

”んな事言っても、あんた達が無責任に子供なんか作るから悪いんだよ!このままじゃ嫁さんの体も危ないぞ!早く何とかしなきゃ!

って怒られたらしいわ。それで、みんなで、騒いでいたら、ネムさんが来て

”なんぞ、騒がしいなぁ。もちょっと静かに出来んか”

って…その言葉で一同シーンって、黙ったの

”おい、そこの二人に用がある、ちょっと頼まれてくれ”

ってパパ達を呼んだの、パパ達はネムさんのテントに行き、何か言われるかとビクビクして座ってたの

”ちょっと、頼み事がある使いを頼まれてくれんか?

”あっ…はい”

何が何だか解らなかったけど、日頃、何かとお世話になってるし、ここで、無事に暮らしていられるのもネムさんのお陰だから、パパ達はすぐに”行くって”返事をしたそうよ。

”この、封筒をここに届けてくれ”

って茶色のA4の封筒を渡されたの。

”これ、電車賃と地図な。まだ、あるかわからないけどなハハ…後、ワシがここにいる事は絶対に内緒だからな!”

”はい!わかりました”

”嫁さんもちょっと、キツいかもしらんが一緒に行ってくれ”

”大丈夫です。行きます”

”ああ、くれぐれもワシの居所は言わんと言う約束を破るなよ”

”は…はい!”

念押しされて、パパ達は地図を見て、不慣れな電車を乗り継いで、地図を見て解りにくい裏通りの小料理屋をみつけたわ」

「小料理屋?」

「うん、小料理屋「源」っ言うお店で、裏通りにある、とても解りにくい場所からだったって」